新聞輸送


 現在旅客鉄道会社には荷物輸送はない、というのが通常の概念です。
 確かに個人が輸送に使えるような、いわゆる「チッキ」の制度は民営化直前に廃止になりました。しかし実際のところ、業者向けの荷物輸送は残っています。
 その代表例が新聞・雑誌輸送でしょうか。首都圏で広く行われているもので、旅客列車の一部を貸し切って新刊の新聞や雑誌を運ぶというものです。千葉では輸送範囲が大変に広いために、両国始発の専用列車が113系で運転されるということまで行われています。
 それは東北本線でも例外ではありません。やはり埼玉県から栃木県方面に向かう新聞輸送が行われています。特に東北本線の場合、地平ホーム(13〜15番線)の方が荷物取り扱いには至便であったため、積極的に午後の閑散時間帯を狙って新聞輸送が行われていました。そのため、地平ホームの一番東京寄りには下のような札がかかっていました。

上野駅14番線の「荷物車」表示

 「荷物車」……直球ストレートな表現と、穴あき鉄板とクリアラッカーで書いたであろう文字に何とも言えない味わいが(爆)。
 この「荷物車」として扱われるのは必ず上野寄り、すなわち最後尾の1両で、ほとんどの場合が全室、まれに半室以下の扱いとなっていました。
 それだけの量の新聞や雑誌を人力で運べるわけがないので、上野駅では専用のモーターカーと台車を使って搬入し、その上で人手で積み込みをしていました。

荷物用モーターカー
後ろに台車を何連もつないで牽引する
新聞輸送用台車
大抵上のようにてんこ盛りにされて来る

 ……モーターカーのメーカーが「ニチユ」なのを見てとっさに工業用ディーゼル機関車を思い浮かべた私は、どう見ても『RailMagagine』の読み過ぎです(汗)。
 まあそれはともかく、新聞輸送の過程を写真で追ってみることにします。

[1]列車到着
左:荷物専用ホーム入口、右:13番線から見た荷物専用ホーム

[2]新聞搬入

[3]積み込み開始

[4]積み込み終了

[5]台車撤去

 [1]列車到着

新聞類の積み込みは量が多いため、13番ホームと14・15番ホームの間にある専用ホームで行われます。
対象列車の到着直前にここを開放し、職員さんが待機しています。
さて、14番線に下り折り返し列車が到着しました。この列車の最後尾車輛がまるまる新聞輸送に使用されます。

 [2]新聞搬入

ここで13番線の壁際の奥から、モーターカーに牽かれて新聞・雑誌を満載した台車がご出御。
荷物専用ホームに台車を押し込み、台車を切り離します。

 [3]積み込み開始

側面のドアコックで対象車のドアエンジンの空気を抜き、手で開けるようにします。
その上で全部開いて手当たり次第にどかどかぶち込んで行きます。本当に「どすっ」「どかっ」と音がします(汗)。
積み込む場所も積める場所なら座席の上だろうか何だろうがおかまいなしです(汗々)。

 [4]積み込み終了

てんこ盛りに積むだけ積み、積み終わると荷物専用ホームでの作業はほぼ終了します。
側面のドアコックで空気を復活させ、扉を閉じます。

 [5]台車撤去

モーターカーがやって来て、空の台車を空車回送すれば積み込み作業は終了です。

 これで新聞の積み込み作業自体は終わり、無理矢理「荷物車」にされた車内はすごいことに。

通路より見た図
こう見るとあまり多くないように見えるが……

扉越しに見た図(1)
ご覧のようにめいっぱいの状態
扉越しに見た図(2)
こちらは新聞ではなく業務書類など

 上の方の写真でめいっぱいに積み上げていたことからも分かるように、とにかく所狭しと新聞新聞新聞。座席の上まで新聞が鎮座ましましているとはまさか思わなかったので、これを撮った時本気で驚いた覚えが(笑)。
 ちなみに「新聞輸送」と銘打っていますが、実際には業務用の伝達書類など会社内部での輸送にも使われており、青いかごなどで区別されています。
 そして最後、特殊な用途で旅客車を占拠することから、荷物が積載されている旨の表示が行われます。

扉の「荷物室」帯

「荷物用」の幕(1)
全室の場合は貫通扉に張られていた
「荷物用」の幕(2)
半室以下の場合は通路に張っていた
 誤乗防止のための幕ですね、簡単に言うと。
 本当は一車輛扉を締め切れればいいのですが、普通の鉄道車輛にはそういうシステムはありませんので……。
 こうして新聞を満載して上野を発車した列車は、途中で次々とこの新聞束を下ろしていくことになります。これぞ都心に直通する幹線ならではの光景だと言うべきでしょう。

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